「シャララ」  眠れない夜。ベッドに横になったものの、どうにも目が覚めてしまう。  それもこれも――あんな気持ちを抱いているせいだ。  いつからだろうか。無意識のうちに、ずっとその人の横顔を追っていることに気づいたのは。  その気持ちが“何か”に気づいたのは。こんな自分が抱けている想いに、気づけたのは――。  ……眠れそうにない。  ――そうだ。相談、してみようかな。  私は携帯を取り出して、あずささんにメールを送信した。 * * *  抑えきれない胸の想いがあった。  それはとても苦しくて、切なくて――でも、こんな気持ちを抱けたことがちょっぴり嬉しくて。  ……お祭の前の前日のような、締め付けられるような心臓の高鳴り。  こんな気分じゃ、眠れそうにはない。  そんなとき、携帯がぶるると震えた。  律子さんからのメールだった。ちょうどいいわ、と私は起き出して、携帯を開いてメールを読んだ。  ……律子さんも、なんだ……。  律子さんも、こんな気持ちのせいで眠れないんだ。  私も、すぐにメールを返信した。 * * *  ――実は、好きな人ができたんです。  あずささんから返信がきた。  ……実は私もです、と。  文章だけで照れが伝わってくるような、控えめなメールだった。  そうなんだ。あずささんも、なんだ……。  この偶然がちょっぴり嬉しくて……ちょっぴり、胸が痛んだ。  私は続けて、メールを書いた。  ――ひょっとして、同じ人ですか……?  なんて、ちょっと茶化すようなそんなメールを送った。 * * *  律子さんからの返信に、私は思わず微笑んでしまった。  ――ううん、きっと、同じ人じゃないと思う。それは、断言できるわ。  そう書いて、メールを送った。  律子さんと私は違う。真面目で頭脳明晰な彼女が、多分私と同じ人を好きになるはずがないと思う。  それに――。 * * *  同じ人じゃない、か。  まぁ、きっとそうだろうと思った。  あずささんのような綺麗で優しい人が、私と同じ人を好きになるはずがないだろうし。  それに――。  ……これはきっと届かない想いだ。胸に秘めておくべき感情だ。  でも、少しだけ、いい気分になったって構わないとは思う。  あずささんと一緒の気持ちを抱けて、嬉しくて、何だか心強い。 * * *  ――すみません、こんな話しちゃって。何だか、恥ずかしいですね。  そんなメールが返ってきた。  私も、恥ずかしい。自分の気持ちを告白するのは、例え親しい人相手でも顔が赤くなってしまう。  それに――相手が相手だからか、こんなメールのやりとりをしていると、とても胸が苦しくなってきた。  叶わない夢を持ち続けるのは、どうして辛いんだろう。  けれど、きっと、これでいいんだ。  そうだ、と私は一ついいことを思いついた。  私は明日、オフだ。確か律子さんもそうだったはず。 * * *  ――明日、どこか一緒に出かけませんか?  あずささんからそんな返事がきた。  それはいい提案だと思った。あずささんとどこかに出かけるのは楽しみだ。  ……待ち合わせに彼女がちゃんと来られるかどうかがひどく不安だけれど。  けれど――途中で辛くなってきやしないだろうか。自分で自分がイヤになって、泣き出してしまわないだろうか。  ちょっと、不安だ。  それでも――私の指は、“行きましょう”という返事を作り出していた。 * * *  こうして、明日、私は律子さんと一緒に出かけることになった。  どこに行こう? 久しぶりのオフだから、行きたい場所はいっぱいある。  メールでの会話は弾み、その後明日の予定を立てるのに一時間はかかってしまった。  胸の高鳴りは消え、睡魔が徐々に押し寄せてきているのを感じた。  打ち合わせも終了したので、そろそろメールを終わらせようと、おやすみなさいとメールに書こうとして――  ――少し考えた。  そして、ちょっと恥ずかしかったけど、これくらいなら大丈夫、と思って――  私は、こんな言葉をメールの末尾に付け足した。  ――明日の律子さんとのデート、楽しみにしてます。ふふっ。 * * *  で、デート……ですか。  ……そんなこと書かれると照れちゃうじゃない。  けど、向こうもそんな私の反応を予想して書いてきたのかな、と思うと、何だか悔しくなった。  私は微笑みながら、こんな返信をした。  ――デート、ですか。本気にしちゃいますよ?  そのメールを最後に、ぱたんと携帯を閉じる。  あくびが出てきた。もう夜中の二時半だ。  もう寝よう。毛布を頭からかぶる。  眠る直前に、何となく呟いた。 * * *  本気にしちゃいますよ、か……。  その文章を書いた律子さんの顔を想像したら、何だか微笑ましくなってしまった。  私は携帯を閉じ、ベッドに体を倒した。  目を閉じると、すぐに眠気はやってきた。  現実と夢の境があやふやになってゆく中で、私は呟いた。 * * *  ――実は、好きな人ができたの。  ――え、一緒?  ――でも、違う人。  そう、違う人。  だって、私が好きなのは――